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『八極拳と秘伝―武術家・松田隆智の教え 拝師弟子だった著者のみが知る「素顔」と「技」』山田英司

八極拳と秘伝―武術家・松田隆智の教え 拝師弟子だった著者のみが知る「素顔」と「技」 (BUDO‐RABOOKS)
山田 英司 松田門下生OB有志 フルコム
東邦出版 2014-03

 山田編集長こと山田英司さんによる松田隆智先生の追悼本です。
 前半は山田英司さんの視点による松田隆智先生の足跡、後半は松田隆智先生の伝えた技術が当時のお弟子さんたちによって演武・解説されています。
 後半の技術編については、主に八極拳を学んでいる方にとっては興味深い内容ですが、読み物として面白いのは前半です。
 これについては、山田英司さんの都合の良いように書きすぎている、松田隆智伝というより山田英司さんの半生記のようだ、といった批判もあるようです。確かに、ほぼ山田英司さんの修行記ですし、主観に過ぎるという面はあるのですが、その修業の前半期について言えば、松田隆智さんとの濃厚な関わりが主軸となっている訳ですし、山田英司さんの視点から見た当時の日本中国武術界の記録という意味では、なかなか興味深いです。
 なにより、いつもながら山田編集等は猛烈に文章が面白いです。
 細かい所の真偽はともかく(そんなものはもう当事者にしか分からないでしょうし、当事者だって記憶があやふやかもしれない)、読み物として素晴らしく面白いので、それだけの目的で読んでも損はしません。
 ネット時代以前の怪しげな中国武術ワールドの記憶を持つ人、『拳児』の愛読者だった人たち、変な黄色い表紙の中国武術本に踊らされた人たち(わたしも読みましたがw)、これらの記憶を共有する方々なら、間違いなく楽しく読めると思います。
 当時の日本中国武術界は、山田英司さんの始めた早稲田の中国武術研究会系のものと、日中学院系のものがあったそうで、当然前者が記述の中心になっているのですが、後者についても少し触れている箇所があります。その中に太氣拳・意拳の佐藤聖二先生のお名前があったのが興味深かったです。当時、既に澤井健一先生のところに入門していたようですが、もともと佐藤聖二先生は別の中国武術を学んでおられて、少林拳の演武が素晴らしかったとのことです。
 また、当時の集合写真の中に佐藤聖二先生のお姿があるのですが、非常に線が細くてとても武術や格闘技などをやるような人に見えません。前にもどこかで佐藤聖二先生の若かりし頃の写真を拝見したことがあったのですが、それも甘いマスクの文学青年のような感じで、全然武術家に見えません。澤井先生も、入門当初、佐藤先生があまりに繊細そうなので心配された、といったような話を聞いたことがあります。人は見かけによらないという、恐ろしい例だと思います(笑)。
 松田隆智先生について、わたしは当然ながら書籍等で拝見したことしかないですし、武術そのものより『拳児』の原作者としてのイメージの方が強いくらいです。そのため、温和でお坊さんのような感じのイメージがあったのですが、結構癇癪持ちで、お弟子さん方を振り回す性格だったようです。
 まぁ、考えてみれば、何の情報もない中、一人で中国までわたって武術を習得しよう、というような人ですから、かなりぶっ飛んだ性格じゃないと到底ムリだったでしょうね。
 山田英司さんが『拳児』に田英海という悪役で登場させられていることは有名ですが、袂を分かって以降、あまり関係は良くないのだと思っていました。実際、『強くなりたい道』の中では、山田英司さんも結構激しく中国武術界を批判されていた記憶があります。それも中国武術への深い愛があったのことでしょうが、末端の読者としては、ちょっと態度が変わりすぎに見えるところもあります。
 実際のところは、山田英司さんだって紛れも無い中国武術研究の第一人者なわけで、あれだけ批判されたのも、その余りある愛と理解があってのことだったのでしょう。ですから、当人の中では同じ気持ちの裏表のようなもので、矛盾するものではないのでは、と推測しています。松田隆智先生についても、同じように相反する色々な気持ちがあったのでしょう。
 とりあえず、少なくとも読み物としては一級ですし、当然ながらプラスαの収穫も得られる好著です。
 山田英司さんは若いころに漫画家やアニメーターを志したことがあったそうですが(中村頼永先生もそうでしたよね)、是非、山田英司さん原作で第二の『拳児』を作って頂きたいです。
 『拳児』の続編とはいかないでしょうし、時代が違いますから同じようなマンガでは成り立たないでしょうが、リアル中国武術もののマンガがまた見てみたいです。その原作をかけるのは(作画もやっていただいてよろしいですが、時間的に無理でしょう)山田英司さんしかいないと思います。
 それこそ松田隆智先生にならい、山田英司さんの半生記をベースにフィクションとして脚色されてみてはどうでしょうか。
 本書の目次は以下の通り。
第1章 中国武術黎明期と私ー私家版「謎の拳法を求めて」
第2章 松田門下に入り、拳法修行ーあこがれの秘伝を学ぶ
第3章 八極拳の基本と套路
第4章 対練と散打
第5章 秘伝
第6章 松田先生の言葉

yryr

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