『空手KO実話 5発以内で確実に倒す! 』村井義治

 「PRO-KARATEDO 達人」で知られる理心塾の村井義治先生の著書、『空手KO実話 5発以内で確実に倒す! 』です。

4809412865空手KO実話 5発以内で確実に倒す! (BUDO‐RA BOOKS)
村井義治 フル・コム
東邦出版 2015-01-10

 最近の伝統武術が見直される流れの中で、格闘技でも実績を残されている村井義治氏は色々な面で注目されている方かと思います。
 本書の構成は、第一章で「1000人をKOした」という村井氏の路上経験が語られ、その後技術解説に入る、という流れです。
第一章 1000人をKOした修羅の戦い
第二章 素手で倒すための原理
第三章 武器となるつかみ
第四章 不敗を導く防御
第五章 状況に応じた実戦の心得
第六章 実戦においての寝技
第七章 ナイハンチの研究
第八章 実戦の心構え
 喧嘩談が語られる第一章は劇画チックな描写でイラストも入り、ちょっと懐かしの骨法本を彷彿させるところもあるのですが、村井氏の実力は格闘技だけでも証明されたもので、路上経験についてもリアリティがあり、本当のお話かと思います。編集的には多少の演出も入れて狙って盛り上げているのかもしれませんが(笑)。
 その後語れる技術は、沖縄空手などがベースとなったものですが、一読して感じるのは、同じ喧嘩術と言っても、例えば林悦道先生のものとは異なり、格闘技とクロスオーバーする部分が多い、ということです。
 林悦道先生の技法は一見泥臭く、高い蹴りなどについても否定的で、いかにも「武術的」な感じがするものですが、村井義治氏のスタイルは上段蹴りなども交えた格闘技的な技術に近いものです。もちろん、だからスポーツ的でダメだ、などということは全くなく、経験に裏打ちされた確かなもので、「いかに空手の技を路上で活かすか」を研究し尽くしている印象を受けます。様々な格闘技やルールの長所・短所についても、冷静に分析されていて、武術的な文脈では時に批判されるような競技スタイルについても、良い面を素直に評価されています。
 山田英司編集長が、その著書の中で「アダプターテクニック」という考えを示されています。伝統武術は本来格闘技的な状況を想定したものではないので、そのままでは競技で使いにくいものが多いです。これを現代格闘技の中で活かすには、「アダプター」となるものが必要だ、という考えてです。
 村井義治氏の紹介されている技術は、逆に格闘技を武術へとつなぐ「アダプターテクニック」のように見えます。空手、特にフルコン系の空手を学ばれている方には、取っ付き易い技術でしょう。特に蹴りを得意とする方には有用な戦い方が多く紹介されています。
 武術系の方には、こうしたスタイルを「体格的に劣る者には使えない」等として批判される向きが時々見られますが、村井義治氏は体重57,8kg程度と、かなり細身で、決してフィジカルで圧倒するようなタイプではありません。そんな細身の村井氏がこうした技術を使って生き残ってきたということは、これらの方法が武術的に有用であることの証左でしょう。
 この手の「喧嘩本」に共通する内容も多く見られ(つまりそれだけ有用ということ)、例えば対複数の場合、正三角形となるポジションに立ってはいけない、といったものもあります。この場合、必ずどちらかの相手に近づいて盾にする、少なくとも距離を違えることが必要な訳ですが、この時「遠くにいる相手に視線を送る」といった細かいコツも示されています。要するに近い相手に不意打ちを食らわす訳ですが、遠い相手に視線を送りながら別の相手に近づくということは、遠い方の相手にビビって後ずさっているようにも見える訳で、相手の油断を生む効果もあるのではないかと思います。
 当然ながら、本を読んだだけで強くなるわけはなく、とりわけ対複数や対武器の技術などは軽々に試して良いものではありませんが、既に格闘技、特に空手系を学ばれている方にはヒントとなる要素が沢山あります。ある程度空手系の武術・格闘技が身に付いている方なら、すぐにも応用できるものではないでしょうか。
 村井氏は「心理的に相手を呑むことにより戦わずして制する」域に達しておられるようですが、それはまぁ、こんな怖い顔の人に喧嘩を売る人はなかなかいないかと思います・・。