『謎の拳法を求めて』松田隆智

 『拳児』で有名な松田隆智さんの武道探求歴を語った半生記です。
 松田氏自身については、色々なことが言われており、ちょっと疑問に思うところもあるのですが、氏の武術を追求する気持ち、行動力、そして語り手として巧みさについては確かなものがあるでしょう。少なくとも八極拳を始めとする中国武術を広く日本に紹介し、裾野を広げた功績は素晴らしいです。百歩譲って「マンガ原作者」としての面だけを見ても、十分良い仕事をしたと思います(と言われたら当人は心外でしょうが・・)。
 空手から始まり、中国武術に行く前に古武術探求の時期があるのですが、この辺りにも時代を感じさせるエピソードがあります。中でも、甲賀流忍術家にして「南蛮殺到流拳法」の達人らしい藤田西湖さんを訪ねた話が面白いです。

 部屋へ通されると、何と忍者・藤田西湖先生はテレビでボクシングを観戦中であった。それからボクが、忍術や南蛮殺到流拳法のことを、いくら質問しても何も答えてくれない。
 そのうち、半分ずつに切ってあるタバコをパイプに差すと、パイプの吸い口を鼻の穴に当てて、鼻からタバコを吸い出した。その理由を聞くと、先生いわく、
「口は物を食べるところであり、吸うところではない。世の中の奴は皆まちがっとる。鼻から吸うのが正しいのだ!」
 そして、
「空手と柔道のそれぞれ黒帯になったら、教えてやってもよい」
 と言われ、二時間ほどお話をうかがって、引き上げた。『武芸流派大辞典』によれば、南蛮殺到流拳法は吸収の延岡藩などに伝承があったという。名前から考えてもいかにも強そうで、子供心に興味を持たせるものがあった。もしも南蛮(東南アジア)よりの伝承ならば、歴史的にも調べてみたかったが、さすがの忍者も肝硬変には勝てず、六十余歳で他界されてしまい、調べる手だては絶たれてしまった。

 中国拳法編になると、通常の拳法の話もあるのですが、やたら歴史の話や、オーラとか気とか、三年殺しみたいな話が出てきて、どうも雲の上のような話になってきます。
 ちなみに、今でも有名で『拳児』の蘇崑崙のモデルとなった蘇昱彰先生の若い時の写真があって、ちょっとレアです。

4808304767謎の拳法を求めて
松田 隆智
東京新聞出版局 1994-01