利き手・利き足の問題ではなく、人間の身体に備わる本質的な左右差と運動能力との関係を解き明かした一冊です。
左右差や左重心の重要性については、かなり微妙な問題で、非常に高いレベルにいる人達にとっては重要でも、シモジモの競技者・武術練習者が軽々に真似ると危ない面もあると思うのですが、本書では左右の問題だけでなく、身体運用上の重要なポイントが色々と解説されています。目線を水平に保つことの重要性など、武術でしばしば強調されるポイントもあります(二目並視)。また「外旋力のかかる方に体重は移動する」「加重と重心の違い」なども分かりやすく大切です。
面白かったのが、フランクフルトラインとカンペルライン。フランクフルトラインとは、耳と目が横から見て水平になるフェイス角度、カンペルラインとは、耳と鼻先が並行になる角度です。
特に格闘技だと「顎を引け」ということがよく言われるので、フランクフルトラインで構えてしまう人が多いのですが、この状態では肩甲骨が引き上げられ、鎖骨に不着する胸鎖乳突筋や大胸筋、僧帽筋などの筋群が緊張、これにより反射的動作が鈍ってしまう、といいます。
これに対し、カンペルラインでは眼球の上下運動に関与する筋がリラックスし、素早く反応することができるそうです。
確かに、一流のアスリートをよく見てみると、カンペルラインにフェース角度をもっていっている人がよく見られます。ヒクソンの構えが典型的です。
また、近代化されていない、いわゆる「未開民族」の人々を見ていると、このフェース角度となっていて、首がまっすぐに伸びているのが分かります。別の本で見たのですが、モアイ像の顔の角度というのが、最もリラックスし素早く反応できるそうです。
これは「正しい姿勢」を作る上でも重要で、立って顔の角度を調整すると、頭が浮いたように楽になるポジションというのがあります。ここに頭部を置くと、非常に安定して楽に立てます。ただ、動きの中でこの状態をキープするのが、普通の人間にはなかなか難しい訳ですが・・。
本書では野球の例が多く取り上げられており、野球に詳しくないわたしにはピンと来ないところがあったのですが、相撲やボクシングの例もあります。ボクシングでは「サウスポーが基本的に有利」という話がされています。
ただ、ここでは「キックボクサーはほとんどサウスポー」などと、ちょっと怪しい記述も見られます。
また、この手の身体論ではよくあることですが、本書で言えば「文化における左右差」のような話になると、途端にスケールが大きくなり、何でもかんでも当該理論の延長で解釈しよう、とする傾向が出てきます。こうした論は、占いと一緒で、「そう言われてみればそんな気がする」ようになっているのです。ですから、身体論では、特に「応用編」的な部分は、参考にしつつも話半分に受け流しておいた方が安全かと思います。
巻末には水平位を保つ練習、股関節の可動域を拡げるトレーニングなどが紹介されています。
左重心で運動能力は劇的に上がる! (宝島社新書) 織田 淳太郎 小山田 良治 宝島社 2011-06-10 |