動体学の河野智聖氏による著書です。
5つの腰椎が身体の基本的な運動に対応しており、様々な文化圏で主として用いる動きがある、といったお話があります。そして腰椎に補助者が軽く触れることにより、それぞれの動作のパフォーマンスを伸ばすことが出来ると言います。
また、それぞれの腰椎が手の各指、「あいうえお」の母音にも対応しているそうです。
L1
神経系を表わす。上下運動を支配する。立つという事、手を挙げるという動作、頭の働きや頚の動きに関係する。
気の方向が上方へ向かう、天へ向かう
アングロサクソン インド
ジャンプ
バレー、バスケ、高飛び
あ 中指
L2
消化器系を表わす。左右運動を支配する。笑う、泣くという人間の感情と関係する。
気の方向が横に走る、左右の動き
フランス 中国
反復横跳び
中国拳法、太極拳
え 薬指
L3
泌尿器系を表わす。捻じれ運動を支配する。闘争的である。勝つ負けるに敏感。ボリュームを好む。人間はやる気を起こすとここに力が集まる。
気の方向が斜めに走る、力強い動き
ラテン系 韓国
捻る動き
テコンドー、フルコン空手、野球、テニス、ゴルフ
い 人差し指
L4
生殖器系を表わす。骨盤の開閉運動を支配している。つまり体を弛めたり引き締めることに関係している。勘や本能、集中力などを表す。
気の方向が下方へ向かう、地へ向かう
ロシア 日本
しゃがむ
古武術
短距離、水泳
う 親指
L5
呼吸器系を表わす。前後運動を支配する。跳ぶ・走る・リズム感などと関係している。
気の方向が前後へ走る、突く動作、受ける動作
ドイツ アフリカ
前後屈
お 小指
なかなか興味深いお話なのですが、正直、ちょっとオカルトがかっていて、にわかには信じられません。
何度か書いていますが、身体論には、基本のところは非常に真っ当で鋭どいことを言っていても、その理論を万能理論化し、演繹し周転円的に拡大していくうちにトンデモになってしまうものが見られます。大体、文化論みたいな話になってくると相当怪しいです。民間療法の話などと一緒で、「腰痛に効く」とか言っているうちはまだいいのですが、「ガンが治る」とか言い始めると暴走しています。
ただ逆に言うと、そこまで拡大解釈しなければ、根本のところでは通常のスポーツ理論の及ばない、非常に鋭利な視点を持っている場合も多いです。河野智聖氏のお話も、なんとなくピンと来るものはあります。
この本の中には、セイクラムテクニックという、腰の中でボールを回すように操作する訓練が紹介されていますが、この感覚は立禅などで出てくる体幹の動きと非常に似ている、というか多分一緒のものなのではないかと思います。
また、伊藤昇先生の胴体力とも通じるものがある印象です。
一般の武道・スポーツ実践者の方は、あまり深入りし過ぎない程度にヒントを求めれば良いのではないでしょうか。
身体の世界は、客観的で「科学的」な言葉だけでは役に立たない場合が多いです。人が主観的に感じる体の中の感覚、自分の中の言葉に落とし込めないと、動きを分析することは出来ても再現できないからです。逆に、「使える」言葉というのは、客観的に見ると「正しくない」場合がままあります。そういう意味では、少しオカルトがかった身体論も、「科学的」には妥当と言えなくても、実践の上で有効な部分は大いにあるかと思います。
生命力を高める身体操作術―古武術の達人が初めて教える神技のすべて 河野 智聖 経済界 2005-01 |