極真空手清武会の西田幸夫先生が、これまでの武道遍歴から「武道としての空手」を考える渾身の一冊。かなり中身が濃く、読み応えのある本です。
極真でパワー空手を学んだ西田先生ですが、試合が一般化するに連れて競技化していく極真空手に足りないものを感じ、太気拳、中国武術、沖縄空手、大東流などを学び、その中で空手を再発見していく過程が描かれています。
太気拳を十年練習するものの、枝葉が削ぎ落とされ幹だけになった様相に分かりにくさを感じ、枝葉を確かめるために、形意拳、太極拳、八卦掌などの中国武術を研究されます。また空手の源流として、現在も鳴鶴拳を学び続けているそうです。鳴鶴拳については、これまで日本でほとんど紹介されてきていないと思うので、貴重な資料でもあります。また、近代空手において気血の考え方などが失われていった経緯についても、考察を加えておられます。
それぞれの武術の解説書ではないので、細かい技術解説や套路図解などがあるわけではなく、むしろ抽象度の高いところでどのような共通点と相違があるのか、レベルの高い試考が行われています。
印象に残るのは、西田先生の視点がとても公平で、武道書にありがちな変な偏見や誇張、手前贔屓なところが見られないところです。極真空手の良い点も悪い点もニュートラルに考えられていて、とても好感が持てます。この一冊以外に西田先生について何の情報も持っていないのですが、実直で謙虚な人柄が伝わってくるようです。
これは偏見かもしれませんが、フルコン出身の方には、こういう素直な視点で伝統武術を見られる人が多いような気がします。ゴリゴリの伝統系の人には、もちろん素晴らしい方も沢山いらっしゃいますが、時々異様に偏狭で教条主義的な人が見られます。個人的には、この本を読んでむしろ極真に対する印象が向上しました。
著者ご自身は、どちらかというとフルコン系の方を読者として念頭においているのかもしれませんが、伝統系の人ほど読んだ方が良いように思いました。
空手! 極意化への道 「どうすれば、いつまでも武術として使えるのか――」 西田幸夫 BABジャパン 2013-02-28 |