『生きること、闘うこと 太気拳の教え』岩間統正

 太氣拳の岩間統正先生の著書です。いわゆる武道書・技術書ではなく、なにせ「人生力アップシリーズ」から出ているくらいですから、人生論的な部分が大となっています。最終章にのみ、技法的なものが少し解説されています。岩間先生は太気拳士として第一人者であると同時に、企業の経営者でもあり、会社員時代にも凄腕営業マンだったので、特に武道に興味のない人が人生論として読んでも学ぶところがあるでしょう。
 個人的には、やはり澤井健一先生についてのエピソードと、技法的な部分に一番惹かれました。

「君はいま辛いかもしれない。君には囲碁もあるし仕事もある。いろいろなものがあるから、このまま放っておけば、君はかならず太気拳をやめてしまうだろう。いまはお節介かもしれないが、あるところまでおれはしつこく君につきまとう」
 ちょうど会社を立ち上げたときでしたから、まさに先生が言う通りの状況でした。でも先生は、
「あるときから、君はやめようと思っても、やめられなくなる。太気拳が君の体の一部になってしまえば、かならずそうなる」
 と言い切りました。そのときは、「何言ってるんだ、そんなはずないじゃないか」と思い、それから太気拳を何回やめようと思ったかわかりません。

 岩間先生は、太気拳を始めた時から、稽古が辛くて、やめることばかり考えていたと言います。

 しかも先生が言うには、
「気がこもるには、一番早い人で五年かかる。五年でこもらない人は、六年、七年はなく、十年かかる。それで十年目にこもらない人は、十一年目はなく、二十年かかる」
 それで、二十年目でこもらない場合はどうなるのかと質問したら、
「その人は一生こもらない」
 と言ったわけです。わたしは怠け者だと自覚していましたから、じゃあ絶対自分には一生無理だと諦めました。
 正直に言うと、その当時の私は、空手にちょっと太気拳を取り込んで、すこし強くなれればいいや、くらいのつもりだったのです。これは、太気拳を始める空手家に共通の幻想です。
 それが大きな過ちだと気付くのは、太気拳のスケールの大きさを感じたころです。

 それでも仕事が忙しくなり、稽古から足が遠のくと、澤井先生が十五人とか二十人の岩間先生の後輩たちを連れて、無理やり組手をさせにやって来た、と言います。澤井先生がそこまでされるということは、やはり最初から岩間先生に抜きん出たものがあったからでしょう。
 そうしたことが三年も続き、結果、太気拳を続けることが出来、今は「教えるということは、教わることだ」という澤井先生の言葉が胸に染み込んでくる、と語っておられます。
 こんな稽古を乗り越えた岩間先生も岩間先生ですし、確信をもって愛を絶やさなかった澤井先生も、尋常ではないですね。

4777100146生きること、闘うこと 太気拳の教え―本当に強くなるために大切なこととは (人生力アップシリーズ)
岩間 統正
ゴマブックス 2003-11-01